「錬金術って(よく分からないけど)、なんかカッコいい!」
「錬金術をテーマにしたゲームや漫画が大好き!」
錬金術、すてきですよね。魔法でも科学でもない神秘の香りに惹かれる方も多いのではないでしょうか?
しかしゲームや漫画などではなく、実在の錬金術について知りたいと思っても、分かりやすい資料を見つけづらいのが現状です。
私は錬金術に萌えるファンの一人なのですが、ネット情報では満足できずに錬金術の関連書籍をいろいろ買いそろえてきました。
そこでこの記事では、過去に実在した錬金術の情報や、ゲームや漫画などファンタジー作品との違いについて分かりやすくお伝えします。
錬金術に興味があるけれどあまり知らない方も、この記事で錬金術の実際のところがスッキリわかるようになります。
1.錬金術は実在する?
錬金術は、実在しました。
紀元前から存在した学問であり、千年以上の時間をかけて、多くの錬金術師たちが錬金術の研究を続けていました。
現代では科学に取って代わられる形で衰退してしまいましたが、錬金術師たちがさまざまな物質を研究した経験が生かされて、科学が誕生したのです。
そのあたり、じっくり説明したいと思います。
ざっくり言うと、錬金術ってなに?
錬金術とは、鉛などありふれて価値の低い金属から、金を作り出すための技術です。
金は最高に尊(とうと)い金属と考えられ、反対に鉛や銅などの金属は卑(いや)しい金属とされてきました。
はい、そうです。
卑(いや)しい金属から、高貴な金属(つまり金)を作り出す技術、それが錬金術なのです。
もともとはいろいろな金属を金へ作り替えるための学問でしたが、卑しいものから高貴なものへ作り替えていく技術として、金属だけでなく生命・魂なども錬金術の対象とされていきました。
錬金術の歴史は?
いつの時代に錬金術が誕生したかは不明ですが、少なくとも紀元前の「世界四大文明」の時代にはすでに、錬金術は存在していました。
紀元前3世紀から紀元後4~5世紀に、古代エジプト、ギリシャでは錬金術の実験がされていたという記載がパピルス文書に残っています。
古代エジプトとギリシャを発端としてアラビア錬金術が確立されたのです。
英語のalchemiy(アルケミー;錬金術)は、アラビア語のal-kimia(アルキミア)からきています。
al-はアラビア語の定冠詞、-kimiaはエジプト語のkimia(黒)あるいはギリシャ語のchymeia(鋳造)であり、錬金術にエジプト、ギリシャ、アラビアが大きく関わっていた背景が感じられます。
その後12世紀に西洋で初めてのラテン語の錬金術書が登場し、西洋でも徐々に錬金術が広まって生きました。
西洋での錬金術の最盛期は16世紀。その後の17世紀の科学・化学の発展は、錬金術によって導かれたとも言われています。
万有引力で有名なあの物理学者「アイザック・ニュートン」が、錬金術の研究を行っていた。と言ったら皆さんは驚きますか?
ニュートンは17世紀の科学者ですが、錬金術の研究者でもありました。
科学が隆盛するにつれて18世紀以降、錬金術はほぼ終息しました。
科学の発展によって「元素の変換はムリ」という事実が明らかになり、錬金術は現代では、ほとんどおとぎ話となってしまいました。
2.みんなの錬金術のイメージは?
錬金術は、ファンタジー系娯楽作品にもってこいのテーマですよね!
学問としての錬金術はほぼ絶滅してしまいましたが、創作作品のなかでは今も私たちの心をとらえて離しません。
実際に、googleなどで「錬金術と言えば」と検索すると、学問としての錬金術より、創作作品がヒットします。
「錬金術と言えば、漫画、ゲーム!?」
現代の二大「錬金術」と言えば、「ハガネ」と「アトリエシリーズ」だそうです。
鋼の錬金術師
『月刊少年ガンガン』で、2001年8月号から2010年7月号まで連載された大人気コミックですね!
累計売上部数は2017年11月の時点で全世界7000万部を突破したそうで、スクウェア・エニックス発行のコミックスとしては最高記録となります。
作中では、等価交換の法則をもとに物質を分解・再構築して錬金術を行います。
アトリエシリーズ
1997年から発売される、「○○(ヒロイン名)のアトリエ」でおなじみの、コーエーテクモゲームスから発売されるファンタジーRPGゲームですね!
わたしはシリーズ第一作「マリーのアトリエ」をやっていた世代なんですが(バレる!年齢がっ!!)、材料集めとか、世界観とかおもしろいですよね。
ちなみにこのシリーズでは、錬金術「師」ではなく錬金術「士」と呼びます。
錬金術は、いろいろな娯楽作品で活躍中!
ファンタジー世界で、錬金術師はすっかりおなじみになっていますね。
ファイナルファンタジー等、さまざまなゲームで登場する「錬金術師」ジョブ。薬を作ったり、魔法チックな錬金術で戦ったりしています。
ライトノベルでも活躍中で、日本最大級の小説投稿サイト『小説家になろう』では、錬金術と検索すれば、なんと1,639作品もヒットします(2020/11現在)。
魔法使いでも科学者でもない錬金術師は、ファンタジー世界で広く愛される存在です。
「錬金術って、なんかあやしげ…?」
錬金術は、「儲かると言って呼び込む詐欺」「簡単にお金を儲ける方法」という意味で使われることもあります。
詐欺は昔から錬金術の附き物になって居る。既に錬金術そのものが、金がほしいという動機が主となって企てられたものであるから、詐欺と縁の深いのは当然のことである。
引用元:小酒井不木『錬金詐欺』青空文庫
トリキの錬金術…聞いたことはありませんか?
GoTo Eatキャンペーンのシステムを利用して、居酒屋「鳥貴族(とりきぞく)」で一品だけ注文し、1000円分のポイントとの差額を儲ける手口でした…
株式投資を「現代の錬金術」と呼ぶ人もいますが、やはり短期間でがっつりお金を増やせるという意味合いです。
ちょっと怪しげな感じになってしまいましたね。
実在した錬金術は、決して「簡単お手軽」ではありませんでした。
ものすごく、ものすごく手間と時間がかかるんです!
次の項目でお伝えします。
3.実在した錬金術のやり方は?
ヨーロッパの錬金術師たちの作業は、大きく分けて2つありました。
1つ目は、「賢者の石を作る作業」です。
2つ目は、「作成した賢者の石を使って、実際に物質を変性させる作業」です。
賢者の石を作る作業
賢者の石とは、卑(いや)しい物質を尊(とうと)い物質に変える力を持つといわれる物質です。
賢者の石を作る作業は、「大いなる作業」と呼ばれていました。
しかし具体的なつくり方については秘密とされて、「この作り方でOK!」というレシピは公開されていませんでした。(えっ。当然ですか?)
作業が上手くいっているかどうかを判断するための伝承だけ残っています。
およそ15世紀以降の錬金術師たちのほとんど全員は、「黒」、「白」、そして最終的に賢者の石が現れた時の「鮮烈な赤」という3色が、賢者の石づくりの成功を判断する目印だと信じていました。
色がこの順序から外れてしまった場合は、失敗の合図なのです。
15世紀イングランドのジョージ・リブリーという錬金術師は、『錬金術の化合物』という書物の中で、賢者の石の製法についてこのように述べています。
偽の淡黄色をともなう淡い白と黒、不完全な白と赤、
鮮やかな色の孔雀の羽根、空にかかる虹、
斑の豹、緑のライオン、烏の鉛のように青い嘴、
これらが、その他もろもろとともに、完璧な白の前にあらわれ、
完璧な白のあとに灰色が、そして偽の淡黄色も、
そしてこれらのあとに不変の赤である物体があらわるであろう、
そのときあなたはその種類の第三等級の薬を手に入れ、
増殖が可能になる。
引用元:ガレス・ロバーツ著、目羅公和訳、『錬金術大全』、東洋書林、2004年、pp84
……うん?
何を言っているのか「??」な感じですが、要するに、賢者の石の製作工程で現れる色の変化を比喩で伝えているのです。
錬金術書は、基本的に比喩であふれており、文章説明がまったくなく意味ありげな図だけの「無言の書」というのもありました。
分かる人が読めば分かる、というアレです。
そして錬金術師たちは、自分が賢者の石を手に入れてしまうと、参考にした錬金術書を燃やしてしまったといいます。
証拠隠滅!?
これでは、あとに続く錬金術師はまた一から研究をし始めなければなりませんね...
賢者の石を作るための材料もまた、錬金術師ごとに違っていました。
ルセピィサという人物によると、「賢者の石の材料は、どこにでもあるほとんど価値のないもの」だそうです。
卑しい金属とされる水銀・鉛などを用いることが多かったようです。
どんな素材を選んだとしても、まずは分解・浄化して「第一質料」という状態にし、それを「昇華」「蒸留」「融解」などの化学実験のような工程で変性させ、賢者の石を目指していきました。
また、錬金術を成功させるには、太陽や月、生命のエネルギーを取り入れる必要がありました。
錬金術師は占星術の知識に豊富であり、賢者の石を作り始めるのは、春分の日がもっとも良いと考えていたそうです。
賢者の石を使って、物質を変性させる作業
賢者の石を手に入れたという公の歴史資料はなく、精製されたという証拠もなにひとつ残っていません。
しかし、賢者の石を手に入れたと自称する錬金術師は実在しました。
錬金術の生みの親である古代ギリシャの「ヘルメス・トリスメギストス」や、14~15世紀の偉大な錬金術師「ニコラス・フラメル」などが賢者の石を作ったと言われています。
ちなみにニコラス・フラメルの存在は、『ハリーポッターと賢者の石』にちょっぴり出てきましたね!
錬金術師を手に入れた錬金術師は、金属を金に変えて大金持ちになったり、賢者の石から万能薬や不老不死の霊薬(エリキサ)を製作したといいます。
錬金術師の仕事場
不純物を取り除いて純粋にするのが錬金術の重要な考え方です。
なので、錬金術師の実験室もまた、ムダなものは取り除き質素で清潔でした。
ヨーロッパの錬金術師たちが実験室で使っていた道具は、紀元前の錬金術師が使っていた道具とほとんど変わりません。具体的には、
- 丸鍋
- やっとこ
- ふいご
- 坩堝(るつぼ)
- 長いさじ
- 乳鉢
- 蒸留器具
- 保温起
- 生成物の保存容器(広口瓶)
- アタノール(錬金術用の加熱器具)
- 錬金術書
アタノールと錬金術書以外は、現代の職人さんの工房とか、学校の理科室とかにもありそうですね。
ただし、錬金術の実験室は、配置にかなりこだわりがあったそうです。
錬金術の成功には、太陽や月から地上に放出されるエネルギーや、自然の生命エネルギーが欠かせなく、これらを取り入れやすい立地にする必要がありました。
4.賢者の石?ホムンクルス?気になる単語あれこれ
よく知らないけれど、けっこう耳にする錬金術用語を紹介します。
賢者の石
先ほどお伝えした、「卑(いや)しい物質を尊(とうと)い物質に変換する石」です。
錬金術師は、この賢者の石の作成を目指して研究の日々を続けていました。
ホムンクルス
15~16世紀の錬金術師パラケルススが書いた『ものの本性について』に紹介された、錬金術によって作られる人工生命です。
蒸留機に人間の精液を入れて40日密閉し、腐敗させ、その後40週間、毎日人間の血液を与えて保温すると小さな人間が出来上がると言います。
エリキサー
不老不死の妙薬のこと。
錬金術の生みの親である古代ギリシャの「ヘルメス・トリスメギストス」が生み出したとされています。
賢者の石をアルコールに溶かして液状にすることで完成します。
エリクシル剤、エリクシールなどとも呼ばれています。
5.核エネルギーで錬金術!?
科学の発展によりすっかり消滅してしまったかに見えた錬金術ですが、こんなニュースが飛び込んできました。
プレスリリース配信社「PR Newswire」などによると、ロシアの科学者Vladislav Karabanov氏、Tamara Sahno氏、Victor Kurashov氏らが、2016年6月21日スイス・ジェノヴァで大々的なプレスリリースを行い、これまでオカルトとされてきた錬金術、すなわち「元素変換」が可能であると発表した。
引用元:【歴史的偉業】ロシアの科学者が「錬金術」の実在を証明! 核廃棄物も黄金に変える“元素変換”のメソッドとは!? exciteニュース 2017年3月22日
…なんと!?
放射性廃棄物を、鉄・ニッケル・銅・バナジウム・クロム・コバルト・マンガンといった変原子価を持つ金属と硫黄細菌と一緒に密閉容器に入れておくと、2~3週間で元素変換が起きてポロニウム、ラドン、水銀、金、プラチナなどに変わるのだといいます。
本当に!?
これって、凄すぎですよね。
どうしてもっと大騒ぎにならないんでしょう?
続報が待たれます…
まとめ
- 錬金術は紀元前から実在した学問
- 価値の低い物質から不純なものを除去して金など高貴な物質を作るのが錬金術の基本
- 錬金術はヨーロッパでは16世紀ごろまで栄えたが、科学の発展とともに衰退
- 錬金術は衰退したが、ファンタジー作品の中では今も大人気
- 核エネルギーを使用すれば、錬金術は実現するかも!?
以上、錬金術がスッキリわかるポイント解説でした。
科学に取って代わられる形で衰退した錬金術ですが、現代の私たちを取り囲む科学法則の中には、錬金術の研究から見つけ出されたものも多いのです。
まだまだ錬金術から目が離せません。