「錬金術を研究している人って、現代にもいるの?」
「錬金術は滅びてしまったの?」
そんな疑問をお持ちではありませんか?
科学の発展した18世紀以降、別の金属から金を合成するのは不可能だと言われて錬金術は衰退していきました。
でも、錬金術の研究は本当になくなったのでしょうか?
この記事では、錬金術の衰退後に出現した「最後の錬金術師」フルカネッリと、最新の錬金術事情についてお伝えします。
錬金術の研究は18世紀に滅びた
錬金術は紀元前から存在し、現代科学の基礎となった学問ですが、科学の発展とともに衰退し18世紀には滅びてしまいました。
その後も秘密結社フリーメイソンなどごく限られた人々は錬金術の研究を続けていましたが、表立って錬金術の研究をする人はいなくなりました。
たとえば18世紀初期の物理学者アイザック・ニュートンは、実は錬金術の研究も行っていたのですが、自分の研究を決して公開しませんでした。18世紀には錬金術の研究の一部が禁止され、禁を犯すと絞首刑になることさえあったのです。
科学的にも社会的にも否定された錬金術は、18世紀には滅び去り、その後復活することはないと思われていました…
20世紀に現れた最後の錬金術師フルカネリ
すっかり錬金術が廃れてしまった20世紀に、突如フランスで謎の錬金術師が現れました。
彼の名は、フルカネリ。
1926年から1929年にかけて、『大聖堂の秘密』と『賢者の住居』という2冊の書物を出版し、20世紀当時に錬金術師が存在することを知らせたのです。
フルカネリは「古くから伝承されてきた方法によって、賢者の石を作り出した」と主張した錬金術師ですが、存在のすべてが謎に包まれており、現在唯一残されているのは、彼の出版した著書に残されたサインだけだと言われています。
実はフルカネリの著書『大聖堂の秘密』はkindleで購読できちゃいます。
フルカネリの本は世界的なベストセラーになり、錬金術に再び注目が集まりました。
しかし20世紀に錬金術が再燃することはなく、錬金術はふたたび歴史の波に沈んでいったのです…
現代の結論:錬金術は不可能である
現代の科学水準で振り返ると、中世の錬金術師たちの「金を作ろう!」という挑戦は、不可能だったと結論できます。
なぜなら、原子力を伴わない元素変換は不可能だからです。
すみません。わかりやすくお伝えします!
まず覚えていただきたいのが、「元素」という言葉。
ポイント
【元素とは】
・炭素、水素、酸素、鉄、金などなど…物質の基本要素
・草木、人間、動物、金属、海、山、大気、宇宙…この世のすべては元素からできている
・天然で存在する元素は92種類
・原子力で作った人工的な元素もあわせると、現在発見されている元素は118種類
原子力を使わなければ、ある元素をべつの元素に変換することは、不可能です。
原子力開発の研究が始まったのは20世紀になってから。
錬金術の時代には、原子力というものは知られていませんでした。
中世の錬金術師は、研究の中で金属をべつの金属に変換する実験をおこなっていましたが、それは「別元素(=別の金属)への変換」ではなく、酸化物や硫化物などの化合物に変化させていただけでした。
ポイント
【化合物とは】
・化学反応で2つ以上の元素を結び付けたもの
・加熱したり、強い酸と混ぜ合わせたりして行う
そうなんです。
いくらがんばっても、錬金術で鉛や水銀を金に変えることはできません。
事実、水銀の化合物である「水銀硫化物」の一種は辰砂(しんしゃ)と呼ばれ真っ赤な色をしていたため、賢者の石と呼ばれることもありました。
地球上に存在する金は、じつは地球が生まれる前に宇宙で作り出されたものだと考えられています。
金などの貴金属の元素は、超新星爆発(ちょうしんせいばくはつ;大きな恒星が死ぬ瞬間に起こる巨大な爆発)による1億℃の超高温の星の中で様々な核分裂と核融合反応が起こった結果に生み出されたものです。
原子力の力を使わなければ、新たに生み出すことはできません。
以上が、原子力を知らなかった中世の錬金術師にとって、金の合成が不可能であった理由です。
現代の最新研究:原子力なら錬金術も可能!
原子力を利用すれば、元素の変換が可能です。
そのため、他の金属元素から金への変換も、理論的には可能です。
そうですね。実用化はされていません。
実用されている原子力発電では、原子炉の中でウランという元素を核分裂させ、その際に発生する熱エネルギーを使って水を蒸気に変えて発電しています。
金を作るという目的では、原子力は利用されていません。
ところで、どうして原子力を使うと元素を変えられるの?
すべての元素は陽子と中性子という物質からできており、原子力を使うと陽子や中性子の数を変えることができるのです。
元素ごとに、陽子と中性子の数が決まっています。
たとえば、金は197個の中性子と、79個の陽子からなる元素です。
原子力を利用すると核分裂や核融合の反応を起こして、元素を別元素に変えることができるのです。
東京都市大学の原子力システム研究室では、水銀から金を作る「原子炉錬金術」の研究がおこなわれているようです。⇒くわしくはこちら「学術系クラウドファンディングサイトacademist 水銀から金をつくる「原子炉錬金術」を実証する!」
水銀と金は陽子数・原子数が似ている元素であり、原子力を使って水銀を金へ変換できるのでは…というのがこの研究の試みです。
ひとくくりに水銀と言っても、金に変換できる水銀と変換できない水銀とがあり(同位体と言います)、ごくひと握りの水銀からしか金を作れないと考えられています。
まだまだ研究途上であり、今後の報告が期待されますね!
宇宙は錬金術に満ちている
地球上では(原子力を使わなければ)錬金術は不可能ですが、宇宙では錬金術が起こり続けています。
この地球には、金、銀、鉄、ウランなど、さまざまな物質が存在しており、それはもともと、宇宙で生み出された元素なのです。
宇宙がはじまってから、およそ138億年…
この長い長い時間のなかで、中性子と陽子の様々な組み合わせが作られ、多くの元素が生み出されました。これがいわゆる「宇宙の錬金術」です。
YouTubeで日本原子力研究開発機構の「宇宙の錬金術」を閲覧することができます。
たとえば地球の自然界で一番重い物質であるウランは、超新星爆発(ちょうしんせいばくはつ;大きな恒星が死ぬ瞬間に起こる巨大な爆発)のような極限状態でしか生み出されない物質です。
地球上では不可能な錬金術ですが、宇宙では今も起こり続けているのです…
まとめ
- 錬金術は18世紀に滅びた
- 20世紀に錬金術師フルカネッリが出現し錬金術は一時的に再注目された
- 錬金術で金を作り出すのは不可能
- 原子力を使えば金は作れる
以上、現代の錬金術事情と最新の研究についてお伝えしました。
魔法と科学の中間にある錬金術……私たちの空想を掻き立て、今もファンタジー作品の中でしっかりと生き続けています。
そしてかつての錬金術とは違いますが、原子力を用いた最新研究も行われているのです。
ファンタジーでも、実学の世界でも、今も私たちの身の回りには錬金術があふれています。